太陽/THE SUN

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「太陽」のカードには、大きく輝く太陽と子供が描かれています。子供は裸で白い馬にまたがり、何かの「祝祭」を意味するかのように赤くはためく大きな旗を掲げています。背後にはひまわりが咲いています。いかにも無邪気な存在を象徴するかのように表現された「子供」。「太陽」と「子供」は、古代から強い結びつきを持っていました。

太陽は、その熱と光によってあらゆる生命を育み繁栄させる重要な存在として、あがめ奉られてきました。古代エジプト文明では、太陽を神として「太陽神ラー」をあがめていました。太陽がこの世界の中心であり、最も重要な天体であることを当時の人々も知っていたのです。暦に「冬至」という日があります。日本では毎年12月22日を冬至としています。冬至はあらゆる文明において、この日より「太陽の力が強まり光が増していく日」として非常に重要視されてきました。古代エジプトでは盛大な儀式が催され、嬰児の像によって「新しく生まれた太陽」をあらわしていたといいます。この祝祭の日を、のちに教会がキリストの降誕祭として12月25日と定め、それが現在のクリスマスになったという背景があります。クリスマスは「新しい太陽が生まれた日」つまり1年の「始まり」でもあるわけです。「太陽」と「子供」は、このように文明の歴史において強いつながりを持っていたのです。




日本には四季があり、季節は春夏秋冬とゆるやかに変化しますが、西欧圏の一年は「夏と冬」という二つの季節があり、夏は太陽が強まり生命が活発になるけれど、冬は暗く寒く生命は死んでゆく、という生か死か、という考え方が主流でした。太陽のカードを彩る「ひまわり」が象徴しているのは「盛夏」、太陽がもっとも強まる真夏の季節を象徴しているようです。それは占星術では「獅子座」の季節。獅子座がなぜ12星座中でもっとも風格のある性質、リーダーシップや、王者の気質を与えられているか、それは太陽がもっとも力を増す季節であるからなのです。そして太陽こそが世界を誕生させ育み発展させる、もっとも重要な存在だからなのです。獅子座が「子供」「無邪気さ」という気質を内包するのも、「太陽」と「子供」の結びつきが背景にあるからなのでしょう。

「ひまわり」が描かれているのは、ライダー版の特徴です。世界中にある様々なタロットカードの絵柄には、子供が二人描かれているものや、太陽だけが描かれているものなど、様々な「太陽」の表現があります。ライダー版の制作された時代には、占星術のコンセプトが重要視されていたこともあって、いかにも獅子座的な「真夏」をイメージした絵柄が採用されたのではないかと推察されます。太陽のカード以外にも占星術のマークが描かれていたり、随所に占星術のエッセンスが見受けられるのが、ライダー版タロットカードの特徴のひとつです。

白い馬に乗ってやってくる「子供」、この対極には「死」のカードにおける、白い馬にまたがって進む「死」の姿が思い浮かびます。「死」は「終わり」「終末」を意味しており、文字通り「死んでゆくもの」を象徴します。「死」のカードの背景に落日が描かれていることに注目してみましょう。あれは「死にゆく太陽」、すなわち「冬の到来」を象徴していると思われます。落日の手前には「月」のカードでも描かれている神秘的な柱が2本あり、この世とあの世の境界を暗示しているようです。ライダー版の制作者は、おそらく「太陽」と「死」のカードを対比させる意図をもって「白い馬」を「太陽」のカードにも描いたのではないか、と思います。





「死」のカードの次にくるカードが「節制」であることにも注目させられます。なぜならば「節制」のカードは、季節であてはめていきますと「夏至」を象徴していると推察されるからです。「冬至」が「太陽の力が強まり光が増していく日」ならば「夏至」は「太陽の力が弱まり光が減っていく日」です。「節制」のカードにも遠い山の奥に太陽が描かれていますが、こうして文脈をたどって解釈しますと、これもまた「弱まって行く太陽」であろうかと推察されます。太陽は山の向こうにあって遠く、道が続いているけれど果てしない印象を受けるのも、太陽が「離れていく」ことを暗示させるための表現であろうと思われます。

「夏至」は「聖ヨハネ祭」の日でもあり、弱まっていく太陽の光に力を与えるために祝火を焚き、悪霊を払い農作物が無事に収穫できるよう祈りを捧げる日でもあります。この日は、不吉な日であるともされていて、川や湖が生贄を求めるため、水泳は避けなくてはならないとされていたとも言われています。「節制」に水辺が描かれていることと符号しますが、そこまで意図されて描かれたかどうかまでは、わかりません。

ともあれ「節制」には「慎重」という意味が付されることからも「気をつけなければいけない」「魔が近づく」などの解釈ができるわけで、反対に「太陽」のカードが出たならば、「見通しは明るい」「力は増す」「新しく始まる」「リフレッシュ」などの非常に楽観的な解釈が出来るというわけです。「生まれたて」「無邪気」「誕生」「出会い」「プレゼント」なども「太陽」のカードの意味にふさわしい解釈です。

実際に占いをするにあたって、「太陽」のカードは、良いことづくめの解釈になるかというと、それは占う内容にもよります。信じ難い不注意による怪我が多い人から「なぜこんなに怪我をするのか」を占いたいという依頼があったので、1枚だけカードをひいてもらいましたところ「太陽」のカードが出ました。つまり本人の「明るく元気な無邪気さ」が原因であると(笑)。子供が無邪気に動き回って怪我をするのと同じということでした。これはちょっとイタいですね…。占星術的にも「火のエネルギー」すなわち「火星」のパワーが過多になると怪我が増えます(参考まで)。

「太陽」のカードを理解するために、今回は「死」「節制」のカードについても解釈を深めてみました。ここで総括的なことを申し上げますと、ライダー版のタロットカードには、おそらくキリスト教的な要素とキリスト教以前の異教的な儀式や祭礼などの要素がふんだんに盛り込まれており、めぐる季節の折々の人々の文化、営みを象徴的に描きこんだものではないかと考えております。タロットというと占いのツールであるだけに、多分に「神秘的」な方向に解釈も傾きがちですが、実は、文化人類学的な側面からアプローチしても面白いアイテムではないかと思われます。数あるタロットの解説書を開いても、明快に説明されているものがなく、いつも腑に落ちなかったことから、こうして自分なりの解釈を試みた次第です。