節制/THE TEMPERANCE

temperance

「節制」と呼ばれるカードには、翼をひろげた天使が両手にカップを持ち、液体を移し替えている姿が描かれています。男性とも女性ともつかない中性的な天使は、片足を大地に置き、もう片足を水につけている状態です。胸には四角と三角の図形があしらわれています。頭には太陽のマークを冠のように頂いてます。

「節制」とは、その言葉のとおりに解釈すると「節度」や「理性」、度を超えないように「控えめにすること」を意味しています。英語の「Temperance」は、「節制」の他に「節酒」「禁酒」などの意味も含んでおり、図像の歴史的見地から、天使が移し替えている液体は、酒、すなわちワイン(ぶどう酒)であろう、という解釈もなされています。ヨーロッパでは、ワインを水で薄めて飲むという節制の習慣があったようですし、「ワインを水で薄めている絵」というものが、実際に存在します。液体が何であるのか、というのは、さほど重要なことではありませんが、タロットの絵柄がどのように成り立ってきたのかを理解するにあたっては、歴史的な図像資料との合致などは、大変興味深い要素であると思います。

キリスト教(カトリック)では、ワインを「キリストの血」とみなす「化体説」があります。一歩進めてワインを「血」に置き換えてみると、「血を水で薄める」行為というのは、自らの存在を薄める、「我を抑える」という行いに通じるのではないでしょうか。それは、まさに「節制=控えめにふるまう」という姿勢につながります。「血は水よりも濃い」ということわざもあることから、血と水を、対極の存在として解釈することも、あながち間違いではないだろうと考えます。

<


天使が移し替えている液体は、性質の違う2つの要素であるという概念的な解釈も出来ます。本来別の性質である異なる液体を、バランス良く調合させる、調和させるということ、その行為の重要性を節制のカードは伝えてくれているのかもしれません。

このことから、節制のカードが「交流」「コミュニケーション」に関する問題を示してくれていると解釈します。自分と他人、まったく違う人間同士が関係を築く事、それは慎重さと繊細な気遣いを必要とします。出会った瞬間にお互いが一目惚れをしたなら「節制」のプロセスは必要ないかもしれません。一気に「恋人」のカードのような世界観を呈することでしょう。

しかし、そのような出会いは稀であり、異なる文化を持つ人間同士が関係を持つためには、まずは「慎重さ」が必要とされるのが常であります。より良い「調和」を目指して、節制は、未知なるものとの交流を試みている状態を表しています。人間関係を占う時に、節制のカードが出た場合は、相手の様子をうかがいながら、徐々に距離をつめている状況と見ます。

交流の対象は、人間に限りません。例えば、新たなる仕事や課題に取り組む時にも、節制のカードが状況を示してくれることがしばしばあるでしょう。直立した天使の大地と水にかけられた足下は、その「緊張感」を伝えてくれているようでもあります。

大地と水に足をかけている図像は、オカルトの歴史の中にいくつか存在します。代表的なものは、キルヒャーの「エジプトのエディプス」の挿絵「イシス」でしょう。この図像には「アルテミスあるいは大母神」という副題もあります。また、錬金術関連の図像の中にも「万物を養う母としての自然」を表現したものに、裸の女性が大地と水に片足ずつ置いているものがあります。

天使ではなく女性像となっていますが、霊的な世界と物質的な世界を媒介する「仲介者」の姿を描いたもののようです。いずれも女性像であり、母なる存在とされている点が興味深いところであります。




未知との関わりの中には、母性的な行為、例えば「子育て」や「教育」なども、含まれていると考えられます。「育てる」という行いもまた、節制の領域であると言えるかもしれません。節制のカードには、女性ともつかぬ天使の姿が描かれていますが、頭上の太陽が「万物を育む」存在を示しているように思われます。

「理性」を持って、自らの「意識」を「調節」し、この世界の「自然、物質、感覚の調和」を求める姿が、節制のカードには込められているようです。それは未知なる学問、「科学」や「化学」を研究する行為でもあり、知識を深める勉強でもあり、視野を広げるための実験でもあるわけです。いずれにしても「慎重さ」が必要とされます。

節制のカードが出た時には、理性的な姿勢、慎重さを必要としている状況であると理解します。気は張りますが、ポジティブに関わっていこうとする姿勢を示しているカードです。よりよい方向に進むためには、高い精神性を持つことが求められるでしょう。非常にスピリチュアルなカードであると言えます。

ところで、スピリットSpiritは「精神」「霊魂」「生気」などの意味の他に「酒」の意味も持つ言葉です。「Temperance」が、「節制」の他に「節酒」「禁酒」の意味も含むように、お酒にまつわるダブル・ミーニングの面白さが、このカードにはあります。

知り合って間もない人との交流を深めるためには、しばしば酒席を利用することがあります。お酒という、ともすると「理性」を奪ってしまう液体を、上手に利用することが大切なんですね。酒は飲んでも飲まれるな(笑)。

上手に利用すれば、お酒はすばらしい液体でもあるわけです。錬金術師は、実は専らお酒を作っていたという説もあります。節制のカードについては、「神秘」と「俗世」の、両方に足をかけた解釈ができると良いでしょう。




投稿者:

イレーヌ・パープル

タロット・占星術研究&実占家