悪魔/THE DEVIL

devil

「悪魔」のカードは、タロットの大アルカナの中でも「死」と同様、恐ろしげなイメージで描かれているので、相談者をゾッとさせることがしばしばあります。一見すると単純でわかりやすいカードのようですが、占いの場では、なかなかに奥の深い解釈を必要とするカードです。

カードには、山羊の頭を持ち、コウモリのような翼をひろげた半身獣の悪魔が描かれています。バフォメットです。手前には裸の男女が、それぞれ鎖に繋がれていて悪魔の「奴隷」のようにも見えます。このように人間を捕らえてその自由を奪う者、それが「悪魔」であると絵は告げているようです。繋がれた男女の頭部には悪魔のような角があります。すっかり悪魔の手下になっているのかもしれません。

「悪魔」が示唆するのは「理性」のコントロールが利かなくなってる心理状態です。「頭ではわかっているのに、心では許せない」というおさまらぬ怒り、「やめようと思っているのにやめられない」欲求、「いけないことだとわかっていてもやってしまう誘惑に負ける心」など。悪魔のカードが出たら、その「心は捕われている」のです。




タロットカードの背景には、キリスト教的世界観があります。「悪魔」の象徴するものは、神的な要素の反対、あらゆる「さかしま」なもの、「神の教えに背くもの」です。それは「七つの大罪」に通じる人間の罪を象徴しているのかもしれません。「高慢」「嫉妬」「憤怒」「怠惰」「強欲」「暴食」「色欲」これが「七つの大罪」です。これらは、それぞれ人間が本来持っている特性、つまり本能的な欲求、感情でもあり、その行き過ぎた状態を「大罪」として戒めていると解釈できます。

人は、ごく普通に生活していても、怒ったり怠けたり、うらやんでみたりするものです。美味しいものがあれば食べ過ぎたりしますし、欲張ったりもします。ステキな人とどーにかなりたいと思いもするでしょうし、ほめられれば鼻高々になるものです。しかし、そうした欲求が過剰になりすぎると「罪」の領域に入ってしまいます。「憤怒」「嫉妬」が過剰になり人を傷つけたり、「強欲」が過剰になり盗みをしてしまう、あらゆる犯罪の根底には「七つの大罪」があるのかもしれません。こうした罪を冒す人間は「悪魔に捕われた状態」であるといえます。カードに描かれた「自由を奪われた人間」です。

人が人としてあるためには、本能的な欲求や感情をコントロールしていく必要があります。本能や感情は、放っておくと「暴走」する事があります。特にまだ教育を受けていない子供には、そうした「暴走」がめずらしくないでしょう。人々は「子供のすることだから」と、大目にみます。大人になるとそうはいきません。人は言語を習得し、社会の規律を学び、それを順守して共同体での生活に馴染んでいきます。そして、過剰な「本能や感情の暴走」を「悪」であり「罪」として認識し排除するようになるのです。特に意識しなくても人は、普通の生活の中で適度な本能や感情のコントロールをしているものですが、時としてそのコントロールを失ってしまうことがあります。




例えば、恋愛。普通の精神状態とは言えない「高揚感」を体験しますから、そこから離れられなくなると「暴走」します。「恋に苦しむ」というのは、この「暴走する本能」と「コントロールする理性」が内面で戦っているから苦しいのだと思います。「暴走」が「理性」を制圧すると「悪魔に捕われた」状態になってしまいます。お金を使う贅沢も「高揚感」を体験させてくれます。そうやって興奮状態を体験して「もっともっと」という「欲望」に火がつくと「暴走」します。「やめられないとまらない」状態です。「暴走」によって強盗や窃盗などの犯罪に手をそめてしまえば犯罪者として「投獄」されます。それは社会からの「逸脱」だからです。

タロット指南の書籍などで、悪魔のカードの意味が「誘惑」「執着」などとなっているのは、それが人間の本能や感情の「暴走」を引き起こす要因となるからです。「暴走」は「暴力」も引き起こします。その「罪」の深さによっては、実際に危険な「悪魔のような人物」が存在しているかもしれませんので、やはり「悪魔」のカードが出た時には、少し緊張感が漂います。

「悪魔」が恐ろしいのは、とてつもないパワーを持っているからです。欲望にとりつかれた人間は、自分の魂を売ってでも、悪魔と取引をしてその「強大なパワー」を手に入れようとします。悪魔の持つ「強大なパワー」は、通常の人間の能力をはるかに凌駕します。古来より人間は、こうした「悪魔の強大なパワー」と戦って来たのです。だからこそ「神」や「宗教」が尊ばれてきたのでしょう。「悪魔のパワー」は、正義の力で制圧されるべきものなのです。そして、悪魔に魅入られた人間は、その自由を失っていることに気がついていないものです。「悪魔」のカードが出たら「解放」への道しるべを探す必要があるかもしれません。




投稿者:

イレーヌ・パープル

タロット・占星術研究&実占家