塔/THE TOWER

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高くそびえる塔に雷が落ち、燃え上がる炎、王冠のような天蓋は壊れ、人々はなすすべもなく落下していく。そんな光景を描いた「塔」のカード。「予期せぬ出来事」「禍い」「別れ」「倒産」「破滅」「投獄」などあらゆる負のテーマを象徴するカードです。正位置も逆位置も、救われるような良い意味は、残念ながらありません。
「塔」のカードが出た時には、いさぎよく受け止めるしかありません。人の知恵では回避のしようがない大きな力が向けられているからです。その力は、絵のように「破壊」してきます。これまで積み上げて来たもの、高く上昇してきたものが、衝撃的なダメージを受けて破壊されます。まさに「ショック」であり「衝撃」であり「事件」です。

「塔」のイメージは、聖書に登場する「バベルの塔」と重ねて見られることが一般的です。人間が神の領域である天にも届く塔を建設したことが、「神の怒り」に触れて、塔は破壊され、人々は方々にとばされてしまったという話。世界のあちらこちらに飛ばされてしまったので、人間は、それぞれに別の言語を持つようになり、簡単に協力しあえなくなってしまったといいます。この説話をもとに「塔」のカードを解釈すると、人間関係では、お互いの「理解のなさ」「誤解」「齟齬」といったトラブルが見て取れることでしょう。言葉が通じないのです。特に恋愛を占う場合は、まったくかみ合っていない二人の関係をあぶり出します。すなわち「ケンカ」「別れ」「離別」という意味が強くなるわけです。




「バベルの塔」が「神の怒り」に触れた原因は、人間の「高慢」です。「高慢」は「悪魔」のカードの解説にも引用した「七つの大罪」のひとつでもあります。「高慢」はもっとも重い罪なのかもしれません。天上界でその美しさを誇った天使ルシファーも「高慢」の罪によって堕天使となり、醜悪な姿に変容し地獄の王となったのです。「塔」が示唆しているのは「罪と罰」なのかもしれません。人間は、誰しも「罰」を恐れます。「塔」のイメージは、最も重い罰を私たちの脳裏に植え付ける作用をもたらすために、このように恐ろしげなのでしょう。「塔」のカードが出たら、とりあえず「警告」として受け止めると良いでしょう。いたずらに恐れることはありません。

ものごとにはすべて「最高潮の時」というものがあります。頂点までいったら、あとは下るしかありません。栄枯盛衰、下克上。最高潮のまま、ずっと未来永劫続いて行くということはないのです。それは数々の人類の歴史が証明してくれています。どんなに栄華を誇った文明も、やがては滅び、廃墟となるのです。人間も不老不死ではありません。人生を謳歌する若い時代があり、やがて年老いて死ぬのです。そのことをふまえていないと「高慢」がむくむくと頭をもたげてくるでしょう。どんなに高い山も登ったら下りるしかないのです。「下山の心」とでもいいましょうか、いずれは下るという考えを持つ謙虚さが必要です。




「塔」の「衝撃」を少しでもやわらげたいと願うのであれば、謙虚さを持つことが大切です。ただ怖がるだけでは、絵の中の「落ちていく人」の姿から抜け出す事が出来ないでしょう。

私たちは、破壊される塔を「見る者」となるべきです。状況を客観視しましょう。その光景を見て学ぶのです。タロットカードが描き出す、さまざまなシーンから学ぶことこそがタロット占いの真髄ではないかと思うからです。

「破壊」は「再生」につながります。この考え方は、キリスト教よりも、インドの神々の有り様に見てとれることが多いです。インドでは、シヴァ神をはじめ、カーリー神など「破壊」を司る神々もまた、人々にあがめ奉られています。ものごとが「破壊」され崩れ去ることは、すべてが無に帰し、そして再び新たに始まるために必要な事でもあるのです。

ですから「塔」のカードが出たからといって、この世の終わりというわけではないのです。なんらかの事件が起きて、ショックを受けるかもしれませんが、結果的に「リセット」がかけられて、心機一転という展開もあるかもしれません。精神的には、それまでのこだわりが打ち崩されてブレイクスルーにつながることも。

ネガティブな人は、運命が自分を苦しめに来ていると考えるかもしれませんが、ポジティブに考えれば、運命は常に導いているのです。よりよい方向へ。恐れることはありません。なにより答えを求める人間が、自分をより良い方向に向かわせたいと願う想いがあってはじめて、カードは意味をもつものです。




投稿者:

イレーヌ・パープル

タロット・占星術研究&実占家