「魔術師」のカードは、その好きな対象を欲するカードです。「手に入れたい」と欲するカードでもあります。欲望のスイッチが押された時点で、誰もが「魔術師」の心理状況を体験するのです。「欲しいと思った時に、それを手に入れている」と言えるのが「魔術師」の若者なのでしょう。「万能感」です。たとえそれが「ひととき」であったとしても、無限の可能性にあふれている感覚です。頭上のレミニスカートは「無限」をあらわしています。

「魔術師」のカードを前にして、エゴイスティックな欲望を否定するべきではないと、タロット占い師は言うでしょう。しかし、欲求と現状のバランスがとれていなかったり、欲望のレベルの個々の違いから、時として（いわゆる逆位置）この若者は「詐欺師」のレッテルを貼られることになるわけです。技術を修得しないのに熟練者になりたいと欲するのは「詐欺師」の道に向かいます。

また「魔術師」は、ギリシャ神話のメルクリウス（ヘルメス）の姿であるという解釈もあります。智恵と伝達の神であり、泥棒の神様でもあるというメルクリウスには、なんでもかんでも「うまいことやれちゃう」神話がいくつかあります。「魔術師」と「詐欺師」の両方の面を統一した存在としてメルクリウスはピッタリ適役です。そんな雰囲気がよく表現されているのがクローリーのタロットの「The Magus」です。蛇のからまったメルクリウスの杖も描かれています。

メルクリウスは、水星の守護神でもあります。水星は西洋占星術では双子座と乙女座の守護惑星であり、特に、伝達、交通、分類、計量などといった職業分野の人々にとって「魔術師」のカードは深い意味を持ちえるかもしれません。

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